明日はきっと。

本やマンガのレビューなど。

好きな人の名字を自分の名字に変えてみたりしたよね?

自分の体調だったり仕事が詰まり気味だったり子どもの調子が崩れたりで、すっかり週を超えてしまいましたが、週刊少年サンデー13号掲載、トニカクカワイイ第3話「それは、キュゥべえと契約するより簡単で、魔法少女になるより重い」の感想を簡単ですが書いていきたいと思います。

「婚姻届を書くだけ」に詰められたもの

前回までのトニカクカワイイは、トニカクカワイイヒロイン・司に一目惚れした主人公が死にそうになりながら告白して、結婚するなら付き合ってもいいよ、と言われる話でした。んで、独り暮らしを始めたナサのところに司が現れて引き、というところで今回の第3話であります。
20ページありますが、内容は表題のとおりです。一通り驚いて、好き好き言って、婚姻届を書くだけ。とはいえ、夫婦コメディと銘打つにあたって大事なステップでもあります。
婚姻届を出すか出さないか、ということは、パートナーとの関係性によって様々な考えがあり、結果として婚姻届を出さない事実婚を選ぶ場合もあり得ることは大前提です。一方で、「夫婦になる=結婚」という方程式も当然に成立しており、夫婦コメディの成立の要件として「婚姻届を出す」という話は必要でありましょう。1話使って書くだけになるとは思いませんでしたが。書くだけじゃない、出せよ!!
さて、この「婚姻届を書く」話の肝は、ラスト4ページにあると思います。ナサの名字「由崎」を司が「文字として認識」し、自分の名前に当てはめてみて、笑顔を浮かべてから「これからよろしく」をする。この4ページが、これからの物語を支えることになるでしょう。ここまででナサは何度か自分の気持ちを伝えていますが、司自身がナサをどう思っているのかを言葉にするシーンはありませんでした。しかし、この4ページの中で、司は「なにより私が信じた人だから」と信用を口にしました。この信用は大事なことで、彼女がどこまでナサのことを好きかどうかはさておき、ナサのことを信用しているからこその結婚であるという前提がここで成立したことは、夫婦コメディを成立させる上で必要な要件をクリアしたと考えてよいでしょう。もっとも、「まぁ大変なこともあるだろう。」というセリフが示唆的ではありますが。

伏線だらけの婚姻届

自分が婚姻届を出してからもう8年たつので何を書かないといけないのか忘れていましたが、今回婚姻届をまじまじと眺めてなんとなく思い出しました。ともあれ、この婚姻届、明らかな伏線すぎてまとめておかないと回収された時忘れてそうだZE☆という感じですね。

  • 司の旧姓になる「月読」という名字(本作サブタイトルや竹取物語との関連性)
  • 誕生日(咲夜と一緒じゃん!ってか16歳!?)
  • 本籍地の住所(千代田区1番って!)
  • 父母の氏名(明らかに偽名くさい)
  • 証人・月読時子(これは実在くさい)

この辺りでしょうか。漏れてそうで不安です。回収が楽しみですね。
なんと言っても、本籍地といい父母の氏名といい、「本当に司に戸籍が存在するのか?」という疑問が晴れないので、早いところ婚姻届を提出してほしいところです。すんなり受理されてもされなくても、考えるかいがあります。よろしくお願いします。

名字が変わるということ

現実的には、名字変わると大変なんですけど*1、子どもの頃に好きな子の名字を自分の名字にしてみたり、逆に自分の名字を変えてみたりしたことはないでしょうか。あたしはあります。ちなみに、に聞いたら小学生のときにしたことがあるそうです。つまり、男女問わず!(サンプル少ない)実際のところ、名字が変わるということの意味、そこに至るまでの気持ちの変遷、手間、慣れなど、そこにはいろいろな葛藤なりがあると思います。
が、そういう大人っぽい現実*2はさておき、少年誌においてトニカクカワイイ3話でもっともかわいかったのは、「由崎司」になることに対して笑みを浮かべる司に間違いなく、そこにかわいさを感じるのは前述した「名字が変わる」ことの意味と経験が結びついてのことではないかと思う次第です。

蛇足

婚姻届については、先日畑先生がご結婚なさったばかりということで、「そのときに使ったものを活用したのでは?」みたいな意見を見かけましたが、個人的には「ゼクシィの付録を参考にした」説を推したいところです。日本全国どこでも出せるからね!まあでも、ぶっちゃけ結婚する予定がなくても婚姻届はもらえるので、深く考えても仕方のないところではあります。出生届は違うので要注意です(何が

*1:あたしの場合は嫁が変わったのですが、見てるだけでも大変だった。

*2:名字が変わることの是非については、ネガティブな要素も含まれますし、法的には夫婦同姓であることに対して合憲である(最大判平成27年12月16日 民集69-8-2586)との判断は出ているものの、選択的夫婦別姓等の議論もまだ続いています。ゆえに、マンガレビューとしては言及が困難だと考えています。

畑先生最新作☆トニカクカワイイはかわいいは正義の体現

畑先生、おかえりなさい!(挨拶)

ということで、本日発売の週刊少年サンデー12号から、畑先生の新連載「トニカクカワイイ」がスタートしました。
一挙2話掲載、トラック、流血など、前作「ハヤテのごとく!*1の第1話〜第2話を彷彿とさせる要素や、前作との共通点を連想させる背景*2などが見られました。タイトルどおり、とにかくヒロインがかわいいことは間違いないことを断言しつつ、新連載の感想を書いていきたいと思います。

明確な下敷きから垣間見える伏線、そんなことよりとにかくかわいい

「トニカクカワイイ」のロゴの下にこっそり「FLY ME TO THE MOON」と入っているのでもしや、と思っておりましたが、第1話時点で早くも本作の下敷きに「竹取物語」があることが明確になりました。かわいいヒロインたる司にどんな力があるのかはもちろん不明ですが、主人公のナサがトラックに轢かれる瞬間、ナサとトラックの間に挟まっても無事であったこと、ほぼ即死に近かったナサを一時的に元気にさせてしまうような「何か」があったこと、そしてトニカクカワイイことなど、かぐや姫に近しいヒロインとして描かれているように思います。
キラキラネームをバネに努力を積み重ねた主人公ナサの、竹取物語に心情をのせた一目惚れの告白が、力の持ち主として難しい感情を持ってきたであろう司の琴線に触れたことは間違いなく、夫婦コメディが始まるきっかけとしては申し分ないでしょう。

二度と会えないと分かっているなら…戦って…追いかけて…取り戻すべきだったんだ…

ナサのまさに生死ををかけた”告白”の中でも、印象的なフレーズです。小さなコマだけど、大きな力があるように感じました。ナサ、とても主人公です。そして、こういう場面でも「竹取物語」が入り込んでくるわけで、「竹取物語」の各種エピソードを元にしたエピソードやら伏線やらが今後出てくる可能性も十分あり、少し古典の復習をしたくなってきます。久しぶりに勉強してもいいかもしれない。
ともあれ、「ハヤテのごとく!」の1巻の時点で畑先生本人が「世界名作劇場が好き」、そして「世界名作劇場的なものを」と書かれていていました。それが完遂されたかどうかはさておき、そこを目指した前作から、次作にあたって本邦の古典を下敷きにしていくというのは非常によいと思う次第です。
そんな理屈はさておき、ヒロインの司がとにかくかわいいのです。タイトル通りなのです。このままいちゃこらしてくれるだけでも別によいのです。かわいいは正義

畑先生の策略がそこかしこにある

かわいいは正義、そして今後に垣間見える設定的なところなど、個人的に押さえておきたいことは以上ですが、それ以上に「トニカクカワイイ」は畑先生がまた実験を始めた*3感がすごいですね。
なんと言っても一番は「連載開始と同時に第1巻の発売日告知」なわけですが、畑先生のバックステージによれば8話まで収録して5月18日発売とのことで…。

トニカクカワイイ 1

トニカクカワイイ 1

Amazonで予約できるあたり、本当に戦術を練るのが好きなんだと思います。結婚発表のタイミングも練りに練ってのタイミングだろう、そして畑先生が連載始めるならあの人にもちょっとお願いしよう、みたいなことを読んでバックステージを読んでいたら、

でも僕も本当にサンデーが、刷り上がるまで知りませんでしたよ!

サンデーまんが家BACKSTAGE|畑 健二郎 Vol.434

あ、さすがに師匠にお願いするところまではできませんよね。失礼しました。あの読み切りについては、元気だったら明日か明後日に書きたい。マジで。トニカクカワイイの感想が全部吹っ飛んだので非常に難産です。
なお、畑先生のまんが家バックステージはネタバレ込みですので本編読後に読むと大変楽しいのですが、そこかしこに爆弾が仕掛けられておりますので、ご注意ください。特に、

ええ、ぶっちゃけ僕は二回も結婚しているので
その大変さは重々承知しております。

サンデーまんが家BACKSTAGE|畑 健二郎 Vol.434

このようなことをさらっと書くのは心臓に悪いよ!ほんとに!知らなかったよ!!そうだったんだ!
こういったマーケティングを仕掛けてくるのが畑先生だよなあ…と思いました、まる。

めでたしめでたしの後

第2話のサブタイトル*4も示唆的でしたが、バックステージで今回明確に語られたのが、「結婚してからが大変なのだ!だからその先を描くのだ!」ということでした。物語としては確かに結婚後を語るものが多くないことは確か*5で、しかも少年誌ではかなり稀だと思います。そこに踏み込んでいくということで、現時点で示されている「トニカクカワイイ」の物語の構造は大変シンプルですが、ナサと司の新婚生活がただの甘々いちゃこらということではなく、きっととか親戚とか上司とかお金とか、そういう結婚後の要素が少年誌で展開されることが期待されます。
少年誌でいいのか。それは。楽しみです。
とりあえずナサの両親がどう出てくるかというのが最初のポイント*6*7だと思いますが、楽しみにしております。あたしも子どもにキラキラネームをつけるのはやめた方がいいと思います。大人になっても恥ずかしくない名前を。

ともあれトニカクカワイイ、想像以上にとにかくかわいいので、来週も楽しみにしております!

*1:ついに枕詞が前作になってしまった…

*2:たとえば2話でナサが済むアパートの1階テナント

*3:インタビューをさせていただいた時に、「ハヤテのごとく!」が実験作であることを明言されていた

*4:「…したとさ めでたし めでたし」

*5:設定的に重くなりがちだからか、あっても青年誌か女性誌が多い感

*6:設定や展開的に司の親・親類というのは明かされるにしてもたぶん最後の方だと思う。

*7:結婚って自分たちだけではできないのよね…という個人的な感想もあります。

畑先生、ご結婚おめでとうございます!!

昨夜、いろいろ疲れ果てて寝ている間に、我らが畑健二郎先生が朝風理沙役かつ『それが声優!』の原作であった浅野真澄さんとご結婚なさったとの報告をされていたようです。

改めまして、畑先生、浅野さん、ご結婚おめでとうございます!!
今後ますますのご活躍とおふたりの幸運を祈念しております。

それにしても、新連載が始まる週の頭というタイミングでの発表に、畑先生の畑先生たる所以を感じずにはいられません。宣伝としては最高のタイミングですね…。久米田先生がいじりそうなニオイがします。

22:20追記:まさかのキャラ名を間違えていたので修正しました大変失礼いたしました。朝倉って音夢だろ(異論は認める)

ついにお引っ越ししました

寒中お見舞い申し上げます。(挨拶)
今年の冬は本当に寒いですね…!インフルエンザもA・Bどちらも流行中とのことで、くれぐれも皆様お気を付けください…!!

さて、一昨年からしばらく悩んでおりましたが、はてなカウンターもなくなり、はてなダイアリーを使い続ける意味を見失っていたこと、はてなブログも育児&Eテレ用に作っていたけど更新していなかったことなどの理由もあり、このたびはてなブログへ完全移行することにしました。
はてなブログになってもはてダのほうもそのまま残すつもりですので、今後とも時々更新の当ブログを、どうぞよろしくお願いいたします。

もやもやが残る『ベイビーステップ』の「終了」

昨日も書きましたが、2017年は読んできたものが「完結」したものが多かった年でした。特に週刊少年誌での「完結」については、きちんと物語を終わらせることができる事の方が少ない(途中で打ち切られることが少なくない)わけで、長年続いてきた作品の「完結」は価値が高いと思います。
さて、週刊連載の中でもトップクラスに好きな『ベイビーステップ』が、今月発売された47巻をもって終了しました。本誌で終了が告知されてから、ずっと「なぜ」と思ってきましたが、結局もやもやしたままです。47巻のあとがきにて、勝木先生が「事情もあり」と書かれていることから、どちらかというと円満終了というよりは、苦戦しての着地というほうが正しいようにも思いますが、それはそれとして、自分の中で『ベイビーステップ』の物語に区切りをつける必要があるだろうとテキストを書いています。
そんな気持ちを読み取っていただけたら幸いです。

エーちゃんのサービスで終わるべき時期ではない

ベイビーステップ』の最終回は、ATP250のアトランタ大会の本戦1回戦でセンターコート、人気急上昇中の相手*1との対戦で、第1セットをまだ1ゲームも取れていないという状況の第4ゲームの最初のサービスで終わります。
このシーンを読み、マガジン本誌掲載時に思い、単行本で読んで改めて感じたことは、「エーちゃんのサービスで物語を締めるならば、このタイミングではなかったのではないか?」ということでした。『ベイビーステップ』という物語は、構造上、基本的に終わろうと思えばいつでも終わらせられるようになっています。その理由は、この作品が持つ「丸尾栄一郎という少年がテニスに出会い、そのテニスに対して自らが立てた目標に向かって一歩一歩進む」という作劇上の大きな軸にあります。「一歩一歩」というのがポイントで、その時点の目標に到達し、次の目標ができればそこで終わらせても大きな違和感は残らないのです。
たとえば、全日本テニス選手権です。エーちゃんは、全日本ジュニアでの敗戦以降もプロをあきらめきれず、「全日本テニス選手権で平均的なプロと遜色がないことを証明する」ことを一時目標にしていました。*2ですので、全日本テニス選手権でタクマに勝ち、ベスト4までいった時点でこの目標は達成したことになりますし、実際にその結果をもって高校卒業と同時にエーちゃんはプロになりました。
この時点で、たとえばグランドスラムなりマスターズなりの場面まで時間をスキップして、エーちゃんにサービスを打たせれば(今回と同じ結末にすれば)、おそらく「プロになってからも読みたかったな〜」と思いながらも、ある程度の納得感と満足感が得られたのではないかと思うのです。なにしろ、タクマに勝ったのです。練習でさえ一度も勝てなかったタクマに勝ったのです。大きな壁だったタクマに勝ったこと、それは『ベイビーステップ』において、とても大きな事でした。勝ったからプロになったのですから。それほどまでに、全日本テニス選手権は大きかった。だからこそ、全日本のあとで今回のような終わらせ方をしたとしても、これほどまでももやもや感はなかったでしょう。
今回は違います。
今回の最終回告知時点は、チャレンジャーで優勝し、「チーム丸尾」を立ち上げたばかりというところでした。しかも、新コーチに対し、短期の目標として「ATP250アトランタへのストレートイン」と、長期の目標として「グランドスラム本戦出場」を掲げたばかり。つまり、ATP250は最終到達点ではありません。現実にATP250本戦に立つことがどれほど難しいかということはもちろんわかりますが、しかし本作においてATP250は通過点に過ぎないはずです。丸尾栄一郎というテニスプレイヤーが目指しているのはグランドスラムであるということは、本人も明言しているではありませんか。
にもかかわらず、ATP250の本戦初戦を前に高校時代のライバル達がこぞってメッセージを送り、エーちゃんがこれまでを振り返るのです。そして、その初戦のサービスで終わる———。
ものすごい不完全燃焼感です。これがせめてATP500だったら、いや、マスターズだったら。それならばまだ納得感があります。繰り返しますが、ATP250の本戦に立つこと、そのこと自体のすごさを否定するつもりはありません。現実に日本人がATP250の本戦にどれだけ立ったのか。実際、日本人でATP250を優勝したのは3人*3にすぎません。すごいことです。ですが、これまで『ベイビーステップ』が積み重ねてきた物語として、ATP250の場に立つことがすごいということと、ATP250が最終回にふさわしい場であるということは、両立しません。
なぜ最終回がATP250アトランタなのか———それは、『ベイビーステップ』の物語のもう1つの柱である、「ナツとの関係の発展」以外の答えしかありません。

ブコメとしては非の打ち所のない終わりだった

ベイビーステップ』の物語の軸の1つとして、「エーちゃんとなっちゃんの恋愛」は欠かすことのできないものです。出会いこそよくありませんでしたが、テニスというスポーツを通じて打ち解け、お互いを思い合い、支え合い、関東ジュニア大会で晴れて恋人になりました。その後もお互いを思いやる、苦手を補完し合って高め合っていく関係が積み重なっていく様子はいじらしく、そして貴重な青春でありました。もっとも、お互いを尊重して高めていったその結果が、ナツがアメリカの大学行きを決めて遠距離恋愛となるということでしたが、2人とも世界を飛び回るテニスプレイヤーになるということならば、それすら大きな障害ではないであろうと思われました。
1年の会えない時間に2人なりの積み重ねがあり、そして最終回の再会に結実するその様は、間違いなく恋愛マンガとしては最高の結末と思います。最後にナツがマーシャと初めて会ったときには、もう正妻の余裕すら感じられます。どんな障害があっても負けない、絆としか言い得ないようなものがエーちゃんとナツにはありました。
「エーちゃんとナツの恋物語」は、間違いなく区切りがついている。そう言い切れると思います。そして、その区切りと『ベイビーステップ』の物語の終わりを一致させるために選ばれた舞台がATP250だったと、そう思えば今回のタイミングに納得がいくのです。
しかし、恋はこの物語の終わりにふさわしいものだったのでしょうか?

これは「完結」ではない

ベイビーステップ』の始まりは、とても地味でした。ずっと壁打ちしている回すらありました。それが、エーちゃんという少年マンガらしからぬ「きまじめ」な主人公によって、1歩ずつ段階を進めてプロまでたどり着くサクセスストーリーになりました。この物語をリアルタイムに読むことができたことには、感謝しかありません。
だからこそ、終わりはふさわしい場であってほしかった。
ベイビーステップ』は、プロにならなかった未来すらあり得た物語です。エーちゃんには、プロをあきらめてナツに帯同する戦略コーチとしての未来すらあり得ました。それが、エーちゃん自身がプロになり、チャレンジャーの優勝まで果たしたのです。
だからこそ、ATP250ではなく、もっと上のレベルの大会で最終回を迎えてほしかった。せめて、公式戦で一度も対戦のなかった池と対戦するか、全日本ベスト4でぼろ負けした門磨との再戦は果たしてほしかった。
それが、ずっと『ベイビーステップ』を読んできた一読者としての素直な気持ちです。
47巻の帯には「完結」と書かれていましたが、「完結」という2文字は到底受け入れられそうにありません。何度読んでも、「俺たちの戦いはこれからだ」という結末としか感じ取れませんでした。それが、とても悲しいです。最近ラブコメばかりになりつつあるマガジン編集部は、もっと考えるべきことがたくさんあると思います。

おわりに

つらつらと批判的な思いを書き連ねてきましたが、『ベイビーステップ』は本当におもしろいマンガです。そして、おもしろい、だけではありませんでした。エーちゃんがテニス素人だったからこそ、あたしたち読者は『ベイビーステップ』を通じてテニスのルールを知り、テニス観戦の楽しさを知ることができました。テニスのランキングについても少し詳しくなることができ、マスターズやグランドスラムの中継を見て、楽しめるようになりました。2014年の錦織圭全米準優勝という、リアルがフィクションを追い抜くような一大トピックがあっても、リアルに裏打ちされたこの物語はなお輝いていました。すばらしい時間でした。

10年という決して短くはない時間、週刊連載という過酷な媒体でテニスマンガの新境地を切り開いてきた勝木先生。本当にお疲れ様でした。ありがとうございました。

*1:どう見てもキリオスにしか見えなかった。オーストラリアだし。

*2:これは正確には、両親が設定した条件ですが。

*3:松岡修造(1992年)、錦織圭(ATP250は2008年の初優勝以来通算11勝)、杉田祐一(2017年)

2017年に読んだ本のおすすめ

というわけで、年末恒例の「今年読んだ本の中でおすすめのものを紹介する」記事でございます。
2017年は、一昨日更新した『アルスラーン戦記』や『ハヤテのごとく!』をはじめ、多くの長期連載やシリーズが終わったこともあり、寂寥感のある年末だったなあという印象を禁じ得ません。

香月美夜『本好きの下克上』

今年の『このラノベがすごい!』のソフトカバー部門で堂々1位を飾った本作。あたしも今年になって知り、値段とシリーズの冊数に少しだけ尻込みしつつ、10月頃から読み始めたら止まらずに今第3部の1巻まで来たところです。
主人公の「本さえあればいい」という思考には大変共感するところですが、異世界に転生し、本のない世界で本を作ろうとするバイタリティと、現代日本で本を読むことで得た知識をそのために惜しげもなく注ぐあたりはとても真似できない…。そういった主人公・マインの行動力と、幼女が大人と丁々発止のやりとりを繰り広げるといった描写が、何とも言えぬ本書の魅力だと思います。
その厚さと分量に圧倒されるかもしれませんが、本が好きな人にはたまらないと思いますので、ぜひ!
あたしも早く、新刊(第4部1巻)まで追いつきたいところです…(あと5冊?)

高田大介『図書館の魔女』

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

図書館の魔女 第一巻 (講談社文庫)

2013年のメフィスト賞受賞作です。昨年文庫化され、続編『烏の伝言』も今年文庫になったのでまとめて購入しました。
上橋菜穂子の『守り人シリーズ』などのファンタジー作品にも通底するものがあると思いますが、本作も「きっちり構築された独自の世界」の中で、人々を描くということが高いレベルでなされていることに感服しました。
そしてその中で、マツリカ様の「話せない」設定とそれによる「手話」という要素が、作品をさらに強力にしているように思います。さらに、キリヒトの隠された設定の明かし方やその後の様々、未来を思うエンディングなど、先々を気にさせつつ見事なまでに書き切っているところが本当にツボでした。
メフィスト賞受賞作は好みが割れがちな面がありますが、好みにあたると本当におもしろくて止まらないことを久しぶりに実感させてもらいました。

米澤穂信米澤穂信古典部

ムック本ですが、新作の短編が良作過ぎたので…。
10月に発売されてからなかなか手に入らなかったのですが、それもそのはず、12月で4版…!なるほどなかなか見かけないわけです。
内容はインタビューや対談、交流のある方からの質問と新作短編となりますが、新作短編「虎と蟹、あるいは折木奉太郎の殺人」がもうすごいよかったんですよ。『ふたりの距離の概算』で登場した後輩・大日向さんが話の端緒になっているあたり、もう時系列的にどこの話なんだみたいなところはありますが、それはそれとして大日向さんの持ち込んだ1冊の文集から奉太郎が徐々に追い詰められていく様子、そしてなぜ追い詰められているのか?といった謎にドキドキしているところに、古典部の誰かが謎を解いていくというその一連が最高に楽しかったです。
そして、ちゃんと完結まで書いてくれるという活字を見てとてもうれしくなりました。楽しみにしています。マジで。

井上真偽『探偵が早すぎる』

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

探偵が早すぎる (上) (講談社タイガ)

「名探偵は事件が起こらなければ活躍できないもの」というのがミステリの基本だと思っていましたが、その基本を覆す『事件が起こる前にトリックを看破し、未遂の犯人を特定してしまう』という作品が本作です。
まるで本格にケンカを売っているかのような設定ですが、ミステリだものありだよね、という。そして、父親の死により莫大な遺産相続をした女子高生が、その遺産を狙う一族に殺されそうになる———という横溝的冒頭がミステリっぽいなーと思った後に、怒濤のような「事件発生前の解決」が起こるという展開に目が回りそうになります。だが、それがいい

市川哲也『名探偵の証明』

2013年の鮎川哲也賞受賞作の文庫化作品ですが、こちらも既存の本格ミステリの骨格に挑戦するかのような内容となっています。
30年前に一世を風靡した名探偵・屋敷啓次郎が、現代になって現代の名探偵・蜜柑花子と対決するという骨格の中に、「名探偵とは?」とか、「探偵として生きるとはどういうことか?」といった新本格的な疑問を呈しつつ、結末へ収斂していく様は圧巻の一言です。
単純にどんでん返しものとしてもすばらしいので、ミステリ好きに読んでほしい1冊です。

栗山ミヅキ保安官エヴァンスの嘘

ハヤテのごとく!』最終回の掲載号から始まったハードボイルド・ギャグマンガたる本作ですが、個人的な今年のNo1であります。
西部最強のガンマンである保安官エヴァンスは、実はモテたくて保安官になったんだよ…!というホットなギャグのスタートから、お互いまんざらでもない関係の女賞金稼ぎオークレイと繰り広げるすれ違いラブコメは、ついつい読み進めてそして笑ってしまうこと間違いなしです。
ハヤテ終了後の、あたしがサンデーを買う唯一のモチベーションと言っても過言ではない…!
ほんと、最近のオークレイがマジでかわいくて困ります。早くくっつけばいいのに。

おわりに

以上でした。
今年もなかなか読めず、活字欲求を小説家になろうで晴らすような感じになり、結構最近のなろうトレンドに詳しくなった1年でした。婚約破棄から始まる系のトレンド、すごく楽しいです。
冒頭でも書きましたが、今年は本当に「読んでいたものが終わる」年で、とても寂しい一方、来年は早々に「カードキャプターさくら クリアカード編」のアニメが始まるなど、今が何年かよくわからないけど楽しみ!みたいな話題も多いので、また新たな出会いを求めて本屋さんをうろうろしたいと思います。
それでは皆さん、よいお年を!