明日はきっと。

本やマンガのレビューなど。

ベイビーステップ4巻:リアル志向のテニスマンガの、シビれる展開

前々から「レビューを書く、書く」と言ってきたけれども延び延びになっていたマガジン連載の「ベイビーステップ」の4巻が今月発売になりました。

ベイビーステップ(4) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(4) (講談社コミックス)


2007年の週刊少年マガジン第46号から始まったこのマンガは、「リアル体感テニスマンガ」と銘打たれたマンガです。なにしろ主人公は身体からオーラを発したり分身したり対戦相手を血まみれにしたりボールがまっぷたつになったりすることはありません。そもそも主人公は、高校1年で初めてテニスに触れた、超優等生。テニスを始めた理由も、「運動不足解消のため」なのです。そんな彼が、プロを目指す少女と出会い、テニスにのめり込んでいく中で、才能を努力でもって開花させていく物語です。

地道な努力の積み重ねの結晶が4巻!

1巻でテニスに出会い、初めての試合で才能の片鱗を見せ強くなるための練習が始まる2巻、そして時が流れ1年後、再び大会でついにシード選手とぶつかった3巻。当初はかなり地味だった物語ですが、様々な出会いや試合を経て成長していく主人公・丸尾栄一郎(エーちゃん)からどんどん目が離せなくなっていくのです。



そう、最初はすごく地味なんです*1。エーちゃんは最初、テニススクールのアップにさえついて行けないくらいの状態。でも、地道な努力を積み重ねていった結果、3巻でついに第5シードの宮川に挑戦し、タイブレイクに入るところまできた―――地味にアツイ展開がずっと続いている、それがこれまでの「ベイビーステップ」でした。

ある意味、ベイビーステップ」という連載マンガの単行本そのものが、その展開の象徴かもしれません。テニスとの出会いが描かれる1巻はかなり地味な展開が多めですが、様々な試合や積み重ねを経て巻を追うごとにおもしろくなっていく様子はまさに本編そのものです。

そんな地道な努力の結晶体、それが宮川戦のタイブレイクからメンタルについて学ぶブレイクタイムを経て準々決勝で第3シードの岩佐と戦うこの4巻であります。正直この4巻は見所が多すぎてどう書いていいかわかりません!(←

キーワードは「勝つために危険を背負う」

3巻中盤から4巻前半に収録されている宮川戦は、エーちゃんが自分の弱点を自覚したこと、そして自分より強い相手とどう戦って勝つかということを考えてひとつの結論を出した重要な局面でした。その「どう戦って勝つか」――――エーちゃんの答えは




(3巻p170)



そう、勝つためには危険を負う覚悟が必要、ということでした。
この点について、大分前にはしさん

「安全確実な道を選び続ける限界」に気づいて、勝つためのリスクチャレンジに打って出る話

http://d.hatena.ne.jp/hasidream/20080630/1214825777

ということを書いています。まったくその通りでもう書くことがないようなまとめっぷりです。安全確実な、いわば守りに入るテニスをするのではなく、攻めるテニスを―――というのが、この宮川戦でエーちゃんが学び実践したものでした。しかもそれだけではなく、「攻めるタイミングを逃さないように、いつか攻めるために守る」ということを同時に感得します。それまでの守るテニスの意味がまったく変わる瞬間でありました。



最初のチャレンジには失敗しますが、それによって対戦相手の宮川も同じように「危険を負う必要」に気づいて、お互いが危険を負うプレーをするようになります。そしてそれが思わぬ結果を生む―――まさに「危険を背負うことを厭わないこと」がテーマになっているように思えました。

エーちゃん覚醒の時

4回戦で第16シードの選手に圧勝するほどの力を身につけたエーちゃん。ベスト8になって、次の対戦相手は第3シードの岩佐でした。彼は、「ボールの軌跡で名画を再現する」という特異なプレースタイルの持ち主。そんな未知のスタイルの選手を相手に、そのプレイスタイルに翻弄されながらも確実に食らいついて、「いつか攻めるために守るテニス」を展開していきます。
その結果、これまでのエーちゃんの地道な積み重ねが結実する瞬間がやってくるのでした。

ここで披露されるコーチの考え。それは、積み重ねの一つ一つをジグソーパズルのピースに例えたもの

パズルは一部が組み合わさるとその周りが見えてきて使い方がわからなかったピースの意味が見えてくる
そして完成に向けて一気に加速する
それがまさに寺島戦の圧勝劇
地道な積み重ねの成果は突然やってくるんだ!!

というものでした。そしてその表現に呼応させて、エーちゃんのプレーのたびにジグソーパズルが組み合わさる様子が描写される演出が加えられ、実にわかりやすいマンガになりました。結果として、パズルが完成するに従ってあたしたち読者は否応なしにエーちゃんの覚醒に期待することになり、そしてついにパズルが完成した時









エーちゃんは相手のミスではなく、自分の力でポイントを取ることができたのでした。エーちゃんの積み重ねの結実―――そう、それは覚醒です。…うおおおアツイ!!

このあたりの展開は神懸かり的なものを感じるほどで、ぜひ一度手にとって読んでほしいなと思えるところです。

丁寧な描写とリアリティ

ベイビーステップ」は、作者の勝木先生ご自身がテニスをされていて、その経験が随所にちりばめられている作品です。そしてそれがこの作品のリアリティを支え、さらに丁寧な描写と表現がさらなるリアリティを作品に与えているように感じます。
テニスの王子様」とは一線を画した作風ではありますが、しかしテニプリが終わった後のテニスマンガとしてこれ以上のものはないように思います。

あなたもまず、「ベイビーステップ」でテニス、始めてみませんか―――?

ベイビーステップ(1) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(1) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(2) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(2) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(3) (講談社コミックス)

ベイビーステップ(3) (講談社コミックス)

*1:今も派手とは言えませんが。