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テニスマガジン10月号の「ベイビーステップ」特集からベイビーステップを読む - 1

まさかのエイプリルフール以来の更新、きよです。
ご無沙汰しております。

ずいぶんサボり続けてきましたが、少し前(といっても10月号だから2ヶ月以上前)の雑誌記事でベイビーステップ特集がありまして、その内容を今になって確認できたのでご紹介をば、と思います。
(長くなったので2回に分けたいと思います。)

「”リアル”テニス漫画にみるテニスの本質」

雑誌「テニスマガジン」は(株)ベースボールマガジン社が発行する、通算で約650号が発行されている月刊のテニス雑誌です。
その10月号で、「『ベイビーステップ』の魅力 ”リアル”テニス漫画にみるテニスの本質」と題されて週刊少年マガジンにて連載中のベイビーステップが取り上げられました。
その記事は、作者の勝木光先生、そして担当編集の千葉さんへの取材をもとに、構成されているものです。あたしは知りませんでしたが、担当編集は中学から大学までテニス部に所属し、大学時代にはキャプテンまで務めたプレイヤーとのことで、なるほど勝木先生の取材だけではなく、経験者が編集にいたことがベイビーステップをよりリアルにできている要因のひとつなんだなと実感しました。

さてさて、そんなイントロダクションからいよいよ本題へと入っていくのですが、多くのテニスプレイヤーが読むこの雑誌をして”リアル”と言わしめるベイビーステップの魅力、そしてリアリティとはなんなのか。そういった分析がこの記事の白眉でありました。
「『ベイビーステップ』のリアル」という項の中で、テニスマガジン誌は次の3点を挙げています。

  • 地道な練習でしか成長はありえない
  • 「勝つ」ためには理由が必要
  • 「細部のリアル」の積み重ね

では、各項目のひとつひとつを見ていきましょう。

地道な練習でしか成長はありえない

エーちゃんは地道に努力を重ねることで、テニス選手として成長していく。逆に言えば、努力なしには強くならない。

この項冒頭のこの一文がそれこそベイビーステップという作品の本質じゃないかと思います。そして、エーちゃんがテニスを始めてからの練習は、「これぞまさにテニスを始めた人たちが踏むべきステップ」といえるもの。そういう細かなところのひとつひとつにリアルを感じ、そしてその「ステップ」を、地道にコツコツと進んでいくエーちゃんに共感を覚えさせるのです。また、エーちゃんの性格設定が「地道な練習」のリアリティを増している、とテニスマガジン誌は指摘します。
この点を勝木先生と担当編集がそれぞれコメントしているので、全文引用します。

勝木先生は、「ずっと努力を続けたり、毎日同じことをコツコツできたりする人って実際にはあまりいないと思う。でも、もしそれが本当にできたら強くなれるんじゃないかって」
また千葉さんも「コツコツやるというのは、誰でもできそうな気がする。時速250kmのサービスを打つよりも、コツコツやることの方が『自分にもできるんじゃないか』と思ってもらえるし、読者に夢を与えることができる」

時速250kmのサービスを打つ選手を主人公に据えるよりも、コツコツ努力するエーちゃんを主人公とする方が、読者が主人公に自分を置き換えることができる―――夢を与えられる。確かに、あたしの身近なテニス好きの方は、このベイビーステップというマンガを読んで大きな共感を覚えている、と話していました。そういったところが、ベイビーステップのリアルを支えるところに間違いないのです。

「勝つ」ためには理由が必要

2点目として挙がっていたのは『「勝つ」ためには理由が必要』というものでした。そういえば、エーちゃんは当初なかなかシードの壁―――3回戦を勝つことができませんでしたし、フロリダではしばらくまったく勝てなくてついには負け癖がついてしまったし、結局タクマにも勝てないままだし、荒谷にも難波江にも勝てていないのでした。
彼らとの戦いを振り返ると、確かに「勝てる理由」がその時々で不足しているように思います。テニスマガジン誌では、その象徴としてエーちゃん3年生の神奈川ジュニアテニスサーキットの決勝(VS荒谷戦)を挙げています。地区大会の決勝というあまり大きな舞台ではないところで主人公を負かす(しかも理由は体力が限界)点が象徴的だとしていますが、あたしはちょうど先月発売になった単行本第19巻に収録されている関東ジュニア準決勝(VS難波江戦)こそ「理由のない勝利はない」というものがわかりやすく描かれていると考えます。
この試合中、試行錯誤を重ねることでエーちゃんは「難波江に勝つビジョン」を見つけますが、それを実行できたのは結局1ゲームでした。そしてエーちゃんは、「勝つビジョン」を実現するために自分に不足しているものは何なのかを勝利をつかむことができない中で気づくのです。
しかし、この作品は少年マンガ。主人公が勝てない、というのはリスクを背負っているように思いますが、勝木先生はこのように述べています。

「取材をしていたときに会った強い選手たちは、当然小さいときから練習をしていた。だから作中で出てくるライバルの選手たちも、それぞれ小さいときから頑張ってきたという背景がある。そんな選手にあっさり勝ってしまうのはイヤだと思ったし、勝つには勝つだけの納得いく理由が自分の中で必要だと思って」

イヤだ―――その感覚こそが、リアルであることにつながっているのだと感じます。そしてそこが、抗いがたい魅力なのです。

「細部のリアル」の積み重ね

いくらリアルだと言っていても、エーちゃんの成長速度や能力は特異的です。そこを補強するのが細かいディテールであり、だからこそ根底の部分ではリアリティーを損なわないように気を遣っている、と勝木先生はコメントしました。
練習法や戦略・戦術やノートや「STC」の様子、テニス大会の雰囲気―――そういったディテールにこだわることで、少年誌であるが故のカタルシスのための「嘘」、すなわちフィクションを補強し、現実に即したテニスマンガであることを保証しているのでしょう。
テニスマガジン誌は、この項を閉めるにあたり次のように記述しました。

そういったディテールに、ていねいにリアルを宿すことで、『ベイビーステップ』の空気感は、テニスの現場の雰囲気と乖離しないリアリティーを生んでいる。

テニスをしたことがないあたしのような読者でさえ、テニスの世界に引き込むことができる魅力を支えるものはなんなのか。そこをテニスマガジン誌はしっかり読み取って、勝木先生や担当編集のコメントを交えて提示してくれました。

次回へつづく。

まだバックナンバーを入手できるようですし、ベイビーステップ好きには一読の価値がある記事です。よろしければ、ぜひ元記事をご覧くださいませ!
長くなってしまったので分割しますが、テニスマガジン10月号の特集記事はもう4ページあって、「細部のリアル」の検証記事とベイビーステップの小ネタを集めた記事が載っています。次回は「小ネタ」のほうを取り上げる予定です。