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ハヤテのごとく!アクセントについてさらに深く考える。

アニメ化によるハヤテのごとく!アクセント問題 - 明日はきっと。
4月1日にアニメが放映されたハヤテのごとく!。そこで、多くの方が覚えたアクセントにまつわる違和感について、アニメのその日に脊髄反射的に一本のエントリを書きました。
あなたの「ハヤテのごとく!」の発音は平板型ですか?それとも最初にアクセント型ですか? - 明日はきっと。
意外に好評で、思わず投票企画を打ってみたのが翌日でした。
そして、こんなメールをいただきました。

きよ様、初めまして。地方在住で、東京式アクセントを学習している"ったか!"と申します。
ハヤテのごとく」のアクセント、私も気になりました。参考になるか分かりませんが、この話題に関しての私見を述べさせてください。また、少々専門的ですがご容赦くださいませ。

メールの転載許可もいただきましたので、ったかさんのメールを紹介しながら、「ハヤテのごとく!」という作品名のアクセントについて考えていきたいと思います。続きからどうぞ。
最初にいただいたメールは、次のようなものです。

<大意>
・「ハヤテのごとく」は、結合名詞ほど1語として定着しておらず、アクセントは前にある語を生かす(文節同士の一般的な接合に準ずる)。
・前の語である「ハヤテ」の部分のアクセントによって「ハヤテのごとく」全体のアクセントが変化する。
・「ハヤテ」にはこの場合、名と名詞の2つの意味が混在しており、特に「疾風」には複数のアクセントが許容されていて、最近では平板型アクセントも存在する。
まず、「ハヤテのごとく」の文法的な成り立ちと発音の関係を2つの論点から話してみたいと思います。
ハヤテのごとく」という言葉が「1語として」定着している言葉かどうかがひとつの論点です。例えば「カラーテレビ」は細かく分ければ「<カ>ラー」と「<テ>レビ」(<>内にアクセント)ですが、決して「<カ>ラー・<テ>レビ」とは言いません。「カ<ラーテ>レビ」と発音します。後の語のアクセントに引きずられて前の語のアクセントが消滅する(平板になる)、1つの言葉のように発音する、これを"結合名詞"と言います。
それに対して、「ハヤテのごとく」は「カラーテレビ」や「株式会社」に比べれば1語としてはまだ定着していません。この場合は文節接合の法則に準じ、アクセントは前の語(「ハヤテ」)を生かす形になります。
対して、少々強引ですが、「ハヤテのごとく」はタイトルなので1語の固有名詞であると受け取ることもできます。しかし、それは「ハヤテ/の/ごとく」というように、「名詞/助詞/助動詞(連用形)」と分けられていたものが転成して固有名詞になったものです。転成した固有名詞は、原則として元のアクセントの型を受け継ぎます。助詞は特別なアクセントを付けず前の名詞のアクセントに準じて、助動詞「如く(終止形:如し)」は前の語(この場合「の」を含む文節)が"平板型"である場合は助動詞の第1拍まで(「<〜ノコ゜>トク」(コ゜は鼻濁音、発音経験のない場合はゴでも構いません))、頭高型など"起伏型"の場合は低く下がってつきます(「<〜>ノコ゜トク」)。故に、「ハヤテのごとく」のアクセントは「ハヤテ」の発音如何で変わるということになります。
以上のことから、私は、「ハヤテ」のアクセントで全体のアクセントが変化するという論に達しました。
そこで問題となる「ハヤテ(の)」なのですが、この"ハヤテ"が(姓名の)名前であれば「<ハ>ヤテ」と発音される方が多いというのは、きよ様と同意見です。実際、アニメ本編から、ハヤテくんを指すものとして発音されたサンプルを抽出すると、全ての方が「<ハ>ヤテ」と発音していました。しかし、作者のこのタイトルをつけた背景に「疾風(はやて)」の意味合いがどれくらい強くあるか、それによって発音は変わってくると私は考えます。
新明解日本語アクセント辞典によれば、"疾風"のアクセントは尾高型と頭高型があり、それに従うと「ハ<ヤテ>ノコ゜トク」もしくは「<ハ>ヤテノコ゜トク」となります。しかし、アクセントというのは移り行くものですから、「ハ<ヤテノコ゜>トク」のように平板に読まれる方も首都圏の若者を中心に多く、最近のアクセント辞典の"疾風"の項には、"新しくはこの言葉は平板で読まれることがある"という意の註が添えられています。
結局のところどちらも可という結論に落ち着いてしまうのですが、強いて言えば、アクセントの強い平板化は、"共通語"と言うよりも"東京の若者言葉"という印象を持たせるのではないでしょうか。
私は東京式アクセントの中でも少し古い、NHKアナウンサーが話すアクセントを標準に据えているので、平板で読むのは違和感がありますし、名の「ハヤテ」と一般名詞の「疾風」をオーバーラップさせるという意味でも、「<ハ>ヤテノコ゜トク」と頭高に読んでいます。(ただ、NHKアナウンサーの中でも比較的ベテランの方は「ハ<ヤテ>ノコ゜トク」と尾高に読まれるかもしれません。)

途中カットしようかとも思いましたが、全文載せました。一部専門的な部分もありますが、読めばわかる範囲であると判断しました。また、アクセント辞典についての言及がありますが、この部分をWordで再現して添付でいただいていましたので、理解の一助となることを目的として掲載します。

さて、一番最初に論旨がありますし、画像も大変よくできているのでわかりやすいかと思いますが、一応僕なりにまとめると

  • ハヤテのごとく!」という単語は、「カラーテレビ」のような結合名詞と言うほどには定着していない。
  • 結合名詞でなければ前の語句のアクセントを生かすため、「ハヤテ」のアクセントが生きる。
  • 「ハヤテ」という単語には固有名詞と名詞の2通りあり、固有名詞であれば頭高型のアクセント、名詞「疾風」であれば尾高型と頭高型の2種類のアクセントとなる。
  • しかし、最近では「疾風」という単語を平板に読むことがある。どちらかというと首都圏の若者に多い。若者言葉である。
  • 結局、原作者の意図がどの程度「疾風」を重ねているか、によって、最終的な読み方は変わってくる。

こんな感じでしょうか?NHKアナウンサーが話すアクセントは東京式アクセントの中でも少し古いこと、その場合は「ヤテのごとく」と頭にアクセントが来ること、というのはかなり意外でした。
ただし、NHKアナウンサーの中でも比較的ベテランだと「ハヤテのごとく」と読むかもしれない、と書かれているのが気になるところです。比較的ベテラン、というのがどのラインかにもよるでしょうが、年齢層がある程度上になると人によって異なる可能性がある、という含みが持たせられています。そういう意味でも、「アクセントは時代とともに移りゆく」というのを感じられます。
ということで、ったかさんの見解は、
どちらも可だが、NHKアナウンサーを標準とすると、アクセントは頭高型になる=「ヤテのごとく」
ということになります。どちらも可だけど、いわゆるアナウンサーが話すようなアクセントで話すとたぶん頭にアクセントが来るだろう、そういう見解です。
僕の最初のエントリとは反対の見解となりますが、そのエントリ自体が自分の感覚を無理矢理言葉にして「どうよ?」と投げかけたエントリなわけでして、むしろありがたいお話です。最初のエントリでカラーテレビのアクセントを引き合いに出していますが、カラーテレビほど認知されていないから「ハヤテのごとく」は結合名詞ではない、というのは考えれば当たり前の話です。僕の周りで「ハヤテのごとく!」って言ったってわかる人は皆無なわけでして、カラーテレビを引き合いに出したのは完全に暴論だったと考えます。
前のエントリの反省はこのくらいにしましょう。ったかさんは、平板アクセントでの「ハヤテのごとく」には違和感がある、と書かれています。一方の僕は、頭型アクセントでの「ハヤテのごとく」に違和感を感じます。また、平板アクセントは若者言葉寄りのアクセントである、とも述べられていますが、僕より若い人の多いハヤテ界隈*1で、平板アクセントに違和感を持った方もかなりいらっしゃるようです。必ずしも若い人よりのアクセントとは言いにくいものがあります。ここで、投票の結果が生きてくるわけです。扱っているコンテンツを考慮すると、比較的年齢層が若いと考えられる当ブログでの投票結果では、およそ60%が頭高型と答えています。そうとらえると、若い人のアクセントとも言いにくい感じがします。*2
さて、このメールに返信させていただいたあと、再びメールをいただきました。

(前略)
さて、前にメールを送りました後、しばらくこの話題について考えておりました。確かに多くのアニメ系映像・音声メディアが「ハヤテのごとく!」の「ハヤテ」の部分に、平板型アクセントを用いているように思います。 やはりアニメ本編のアクセントを尊重しているのかなと言う印象を持ちました。また、あくまで想像の域を出ませんが、もしかしたら「平板で読んでほしい」などという要望が制作者サイドからあったのだろうかとも思いました。ただ、アクセントに対する高い意識から、自ら「これは1語として読まなくてはならない」と判断して読まれている方が、取り巻くメディア業界の方々を含めどれだけおられるか、これはいささか疑問符がつくところです。

前半部分ですが、多くのメディアで平板型アクセントを用いていることから、アニメ本編のアクセントを尊重しているか、ひょっとしたら原作側から平板で読むように要望しているかもしれない、というものです。
本編を除くメディアに関して言えば、アニメ本編を尊重している、というのが正解ではないかと思います。そして、アニメ本編に関しては、畑先生が深くアニメ制作に関わっていることから考えて、本編スタッフに要望が出されている可能性は結構高いんじゃないか、と思います。つまり、
原作サイド(畑先生)から要望 → ショートアニメで平板アクセント使用 → 本放送でも引き続き平板アクセント → アニメ本編を尊重してほかのメディアでも平板アクセント
という流れがあるのではないか、ということです。ったかさんもおっしゃっているように、本編以外のメディアが自ら判断して平板アクセントを使っているとは考えにくいです。
よって、アニメのアクセントには原作者の意向が入っている可能性があるということは言えそうであります。断言できないのが辛いところです。
そして、このメールの最後に、アクセント全般にわたってのコメントがありました。

前のメールでも書きましたが、一般に東京の言葉を話しているとされる地域で、若者を中心に音の平板化が進んでいます。例えば、「ゲーム」は本来「<ゲ>ーム」ですが、東京出身の若年層では「ゲ<ーム>」(「<ゲーム>」)と読まれることがあります。これは、きよ様のブログエントリにも書かれていた「そのほうが読みやすい」と考える方が多くなってきたというのが大きな理由だと考えられています。
今回の話題を考えるにあたって、言葉が、アクセントが、大きく変化してきているなと感じました。

近年の「若者言葉」は確かに平板なアクセントが多いなあと、僕も感じているところであります。ゲームを平板で読むことを僕はしませんが、話していてアクセントが平板になっている瞬間を感じるときがあります。もしかしたら、このハヤテの発音の問題もその片鱗なのかもしれません。
ことばやアクセントは、地方によっても違いがありますし、常に変化しています。何が標準であるか、というのは明確にできないものでしょう。だからこそ、時々立ち止まって、少しでも自分の発する・書くことばやアクセントに注意していきたいと思いました。それがきっと、これから先役に立つときが来ると思うので…。

おわりに

長文をここまで読んでいただき、ありがとうございました。オチがなくてごめんなさい。
結論が出せる話ではないと思うので、明確な形ではありませんが、
「標準的アクセントでは概ね頭高型と思われるが、原作の意向もありアニメでは平板アクセントを用いている」
と考えるのが今考え得る最も可能性の高い結論ではないかと考えています。ご意見ご感想などがありましたら、ぜひコメント欄やトラックバック・メール等でお知らせいただければと思います。この話については、時々またネタにしたいと思っています。
最後に、脊髄反射的なエントリに丁寧な考察メールを送ってくださり、さらに転載を快諾していただいたったかさんに最大級の感謝を。ありがとうございました。

*1:いや、少なくとも中の人の年齢が推察できる範囲だと僕はトップ5に入りますね、ってこの前カームさんと話してたんですよ…

*2:サンプル数が絶対的に少ない、というツッコミはスルーですwわかってますから。ええ。