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『ドラフィル!』がおもしろかったので紹介する

先日書店でなんとなく文庫本コーナーを見ていたら、ふと目にとまって、開いてみたら最初の一文が気に入ったので購入した本がありまして。読み終わったらかなりよかったので紹介してみようと思った次第です。

メディアワークス文庫というと、昨年出版され本屋大賞にノミネートされた『ビブリア古書堂の事件手帖―栞子さんと奇妙な客人たち (メディアワークス文庫)』などが話題となっていますが、今回紹介するのはそのレーベルの新刊となります。
一流音大を卒業したものの音楽では食べていくアテのない主人公のヴァイオリニスト・藤間響介が、叔父から紹介されてやってきた街・竜ヶ坂の商店街のオーケストラで様々なもめ事に立ち向かう羽目になりながらも、自分の中にあった殻を破っていく、そんな物語です。

おすすめポイント(1)冒頭がいい

この物語、何がいいかというと、まず冒頭がいい。

藤間響介の初恋は、十年前に奏でられたフォルテの重音から始まった。

こんな冒頭で始まる序章で、とあるコンクールの舞台に立った少女の演奏を聴き、ただただ「やらされていた」ヴァイオリンの持つ力を知り、そこを目指すというのがこの物語の主題、と思いきや、物語は10年後、音大を卒業したものの食い扶持を稼ぐアテがない主人公の描写から始まるというのが、実にツボです。目指したけれどそこにはたどり着けなくて、でもあきらめきれなくて―――そういうもどかしさ、誰もが経験したことがある気持ち。そこをあきらめないでいることから始まる物語なのです。

おすすめポイント(2)キャラクターがいい

そしてキャラクターがなかなかいいのです。
主人公は実に典型的な優柔不断・物事を断れない最近よく見かける主人公の類型ですが、断れないからこそ物事をきちんとこなしていくことができる、という割と優秀側の人間です。
そんな主人公を振り回すのがヒロインの役目ですが、男勝りな車椅子に乗った女性、一ノ瀬七虬がそのポジション。登場時点では裏方かと思いきや、実は響介がやってきた竜ヶ坂商店街オーケストラ、通称ドラフィルの指揮者で、しかも天才肌。そんな彼女が公私にわたって響介を振り回す様は実に堂に入っていて、振り回されるのがそれはそれで楽しいんじゃないか、と思わせる嫌みのなさが魅力です。その上―――というところが本作の読みどころと思います。
この二人を支える商店街のみなさん、オーケストラのメンバーがそれぞれに個性的で、オーケストラの持つ多様性をそのままキャラクターに落とし込んだような、そんな雰囲気があります。

おすすめポイント(3)テンポよく、読みやすい

冒頭とキャラクターがいいだけでは読み進められないことも多々ありますが、本作は音楽用語や曲名、楽器やオーケストラについての解説を挟みつつもテンポよく話が進むので読みやすいのです。これもまた魅力的。特に挿入される楽器やオーケストラについての説明が、そのままキャラクターのやりとりの中に反映されたりしていて、これが一つの楽しみになっていると思います。
特にオーボエクラリネットに注目です、この辺。

まとめ

ここまで簡単に「ドラフィル!竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄」のおすすめポイントを書き連ねてきましたが、最近あたしがジャケ買いをした中では一番だったということで、興味のある方はぜひ読んでみてください!

余談

同じメディアワークスから出てる(でも電撃文庫)「さよならピアノソナタ」は、クラシックもロックも扱っていますが、本作はクラシック一色です。ただ、わからなくても、聞いたことがあるであろう曲もたくさん出てきますし、クラシックに苦手意識がある方もいると思いますが、触れてみると結構いいものですので、これを機会に…というのもいかがでしょうか!