明日はきっと。

本やマンガのレビューなど。

2012年の読んでよかった本のまとめ

昨年末に書けなかったので、まだ1月の今の内にまとめておこうと思います。恒例のあれです。
※今年は各作品、公式サイトからあらすじを持ってきました。※

辻村深月「ツナグ」

ツナグ (新潮文庫)

ツナグ (新潮文庫)

この喪失は永遠に取り戻せないのか――あなたが再会したい人は誰ですか?
もしOKしてくれたら、絶望的な孤独から私を救ってくれた「あの人」に、ただ一言、お礼が言いたいんです――。たった一人と一度だけ、死者と生者を再会させてくれる人がいるらしい……。大切な人を失った後悔を抱えながら、どう生きればいいのか。誰もが直面する苦悩に真っ正面から挑んだ、著者渾身の連作長篇ミステリ!

まずは、直木賞を取り、著作のドラマ化や映画化が続いた辻村作品の文庫から、映画になった「ツナグ」を。
2012年は文庫になったのが「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」と「ふちなしのかがみ」、そしてこの「ツナグ」でしたが、その3作品であれば本作が最もおもしろかったと思います。というより、辻村作品の代表作(の一つ)と言っても過言ではないとあたしは考えます。
「たった一人と一度だけ死者と生者を再会させてくれる」というところから、死が人々に与えた喪失感や苦悩とどう向き合うのかという点を丁寧に描かれているのもグッドポイントですが、そこに立ち会う「ツナグ」の視線がとてもよいのですね。前半と最後の「使者の心得」とで「ツナグ」への見方がぐっと変わるはずです。
個人的辻村作品ベスト3だと思っています。今後の活躍を期待しています。

宮部みゆき「英雄の書」

英雄の書〈上〉 (新潮文庫)

英雄の書〈上〉 (新潮文庫)

英雄の書〈下〉 (新潮文庫)

英雄の書〈下〉 (新潮文庫)

森崎友理子は小学五年生。ある日、中学生の兄・大樹が同級生を殺傷し、失踪するという事件が起きた。兄の身を心配する妹は、彼の部屋で不思議な声を聞く。「君のお兄さんは、“英雄”に憑かれてしまった」。大叔父の別荘から兄が持ち出した赤い本が囁いた。『エルムの書』に触れ、最後の器になってしまった、と。友理子は兄を救い出すべく、英雄が封印されていた“無名の地”へと旅立った。

宮部みゆきのファンタジーといえば、「ブレイブストーリー」が有名ではないかと思いますが、この「英雄の書」は、「ブレイブストーリー」同様、小学生が身近に起こった事件(事象)をきっかけに異世界に足を踏み入れ、その解決を目指すストーリーです。
しかし、「ブレイブストーリー」が痛みを伴いながらも暖かくなる作品(一定のハッピーエンド)でありましたが、「英雄の書」を読んでどう捉えるかというのは少し難しい、大人向けのファンタジーになっています。
何よりもこの中で語られる物語の有り様は強く、そしてもの悲しさを覚えます。若干難しいところもあるし、評価は割れそうにも思いますが、2012年に読んだファンタジーではやはり図抜けてると思います。

美奈川護「ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄」

 音大を出たけれど音楽で食べていく当てのないヴァイオリニストの青年・響介。叔父から紹介されて彼がやってきたのは竜が舞い降りた――と思われる程に何もない町、竜ヶ坂の商店街の有志が集まったアマチュアオーケストラだった。
 魚屋のおっさんから女子高生、スナックのママまで、激烈個性的な面子で構成されたそのアマオケを仕切るボスは、車椅子に乗った男勝りの若い女性、七緒。彼女はオケが抱えている無理難題を半ば強引に響介へ押し付けてきて――!?
 竜ヶ坂商店街フィルハーモニー。通称『ドラフィル』を舞台に巻き起こる、音楽とそれを愛する人々の物語。

読了時の紹介記事はこちら
これに追記する必要はさほど感じませんが、これで十分完結していると思っていたら2巻が出て驚いたところ、あとがきにて「家族の問題を解決してきたが、まったく解決していないものがあり」という記述があって納得しました。
1、2巻というよりも、上下巻と言ってもいいように思いますが、ドラフィルそのものがあたたかい家族のようであり、そこにいることの幸せを響介が感じていることが我が事のようにうれしい作品です。

岡崎琢磨「喫茶店タレーランの事件簿」

また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を 『このミス』大賞シリーズ バリスタ・切間美星の趣味は ――謎解き 京都の町で、女性バリスタ日常の謎を鮮やかに解決! 珈琲好きの青年とバリスタの前に、忍び寄る闇……。 編集部推薦作家デビュー! 『このミス』大賞 2012隠し玉

2012年の「このミステリーがすごい!」大賞に応募され、編集部の隠し球として加筆修正を経て出版された本作は、タイトルも表紙も、そして読み終わった印象もまさに『ビブリア古書堂の事件手帖』由来の流れにばっちり乗ったなあという作品です。
しかし、ビブリアよりもよりミステリ的な要素が強くなっていて、ラストもかっちりとミステリになっているので、ビブリアの次のステップに最適なのではないかとも思います。
ビブリアが栞子さんに萌えるミステリと見るならば、こちらもやはり探偵役のバリスタ・切間美星さんに萌えるミステリと見てもいいかなと。非常に魅力的なキャラクターでした。

米澤穂信ふたりの距離の概算

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

ふたりの距離の概算 (角川文庫)

春を迎え2年生となった奉太郎たちの古典部に新入生・大日向友子が仮入部することに。だが彼女は本入部直前、急に辞めると告げる。入部締切日のマラソン大会で、奉太郎は走りながら彼女の心変わりの真相を推理する!

アニメ、すごくよかったです!
というご祝儀的に、奉太郎たちが2年生に進級したあとのファーストエピソードが文庫になっていたので未読の方におすすめしておきます。
個人的には、奉太郎がえるについて「こういうことはしないだろう」という前提にたって考えている様がおもしろかったです。

古典部シリーズについては、いろいろ書こう書こうと言いながら結局書けずに時期を失った感じですが、書きたかったことは古典部シリーズが高校生活における時間の経過と人間関係の変化を丁寧に書いてるよね、ということでした。

まとめ

今年は以上5点としました。
昨年はついに「ソードアート・オンライン」に手を出したり、最近になって「ストライク・ザ・ブラッド」を既刊そろえてみたりと、例年よりラノベの増加量が多かった年でしたが、それ以上にメディアワークス文庫につい手が伸びる一年だったような気がします。
あれ、表紙がつい手を伸ばしてしまうデザインで、その辺うまいなあと思ったりして。
そういえば、例年なら伊坂幸太郎の文庫の新刊をここに取り上げることが多かった気もするのですが、2012年の文庫になったのがどちらかというと自分の好みではなかった感じで(特に年末に出た「SOSの猿」が顕著)、珍しく選ばなかったりしたなあ。

そんなわけで、今年もいろいろな作品に出会えますように。そしてこのブログを読んでくださった方にも、すばらしい本との出会いがありますように願って、2013年最初の「明日はきっと。」の更新といたします。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。